リアルとバーチャル空間の垣根を超えた“待ち合わせ”が可能に 『デジタルツイン渋谷』デモンストレーション&体験会レポート

 
デジタルツイン渋谷とはKDDI株式会社、一般社団法人渋谷未来デザイン、一般財団法人渋谷観光協会を中心に組織している渋谷5Gエンターテインメントプロジェクトが行っているサービス。渋谷区内の様々な情報をデジタル空間上に再現し分析や予測を行うことで、スマートな街づくりを進めるというものだ。今回、それを拡張し、衛星写真や街の写真、VPSという技術を使った位置情報やARを使用しながら、リアル空間とバーチャル空間の連動したプラットフォームを作り上げていくための実証実験が行われた。  
実証実験では、「バーチャル待ち合わせ」と「バーチャル接客」の2つのパターンでのデモンストレーションを実施。  
KDDI株式会社 事業創造本部副本部長 兼 Web3事業推進室長 兼 LX戦略部長の中馬和彦氏と渋谷区長の長谷部健氏が体験した「バーチャル待ち合わせ」では、実際に店の中にいる区長と、バーチャル空間にいる中馬氏のアバターという、バーチャルとリアルを越えた待ち合わせが行われた。中馬氏はスマートフォンでバーチャル空間内のアバターを操作し、スマホゲームのような操作でバーチャル空間の渋谷区にあるSUMADORI-BAR SHIBUYAに向かう。バーチャル空間の街並みは非常にリアルで店名まで反映されているが、これは街の写真や衛星写真をスキャンすることで、コストをかけずにリアル空間を忠実に再現することを可能にしているという。一方でリアルのSUMADORI-BAR SHIBUYAの店内にいる区長がスマートフォンを店の入口にかざすと、バーチャル空間のSUMADORI-BAR SHIBUYAに到着した中馬氏のアバターがARによって表示。中馬氏のスマートフォンにも、区長のアバターが表示された。VPSという位置情報技術によって正確な位置に表示された彼らは、実際に会うことなしにスマートフォンを使ってリアル空間とバーチャル空間を越えて待ち合わせ、手を振ったり音声でのコミュニケーションをとっていた。  
この様子を見たスマドリ株式会社取締役CMOの元田済氏も「今はZOOM呑みというのもありますが、このように空間ごと共有できるとなるとまた全然違うのかなと思います」と反応。待ち合わせをして集まるのが必須なZOOMではなく、偶発的な出会いから呑みに発展することも可能なこの技術で、実際に会わずしてよりリアルに近い付き合いが可能になりそうだ。  
バーチャル接客のデモンストレーションは、SUMADORI-BAR SHIBUYAの中にアパレルの店舗を模したセットが用意されて行われた。自宅にいる利用者がバーチャル空間の店内に来店すると、実店舗にいる店員のスマートフォンにそのアバターが表示される。利用者はバーチャル空間の店内を周りながら、実店舗にいる店員と音声や写真でやりとりすることで、気軽に質問をしたり、試着イメージの写真をリアルタイムにリクエストすることができる。また、アバターは指をさすといった動作も可能。バーチャル空間には商品の陳列まで再現されているため、商品を指さすことでより円滑なコミュニケーションを取ることもできるという。ネットショッピングよりも細かな着用イメージなどを確認しながら店員とコミュニケーションを取り、買い物を進めていく様子がデモンストレーションされた。  
これらは元々モデリングによって構築された「バーチャル渋谷」での実装を目指していたというが、「バーチャル渋谷」は渋谷の街並みを元にしながらも、リアルではできないことを実現していくことができるサービス。そのため現実との整合性が取れない部分があるのに対し、デジタルツイン渋谷は実物の写真などを使い本物を忠実に再現することで、リアルとバーチャルとの連動を可能にしている。店内の商品を指さしてコミュニケーションを取ることができるのも、店内にある商品やその陳列をスキャンするだけでバーチャル空間内に反映することのできる手軽さがあってのこと。モデリングの必要のない、スキャンするだけでいいという手軽さやコストの低さ、再現度の高さもデジタルツインの特徴だ。  
デモンストレーションを終えた長谷部渋谷区長は「コロナ禍で学校での職業体験が難しくなっていますが、デジタルツイン渋谷を利用すれば子供たちもいろんなことができるようになるかもしれません。区役所に来なくても様々なことができるようになるかもしれないなとも思います。全てがバーチャルじゃないからできることもあるのでは」と教育や行政への応用の期待も口にした。今後KDDIは、アパレルや飲食業、観光業や家電量販店などと実証を進め、2023年夏頃のサービス提供を予定しているという。