「インフラシェアリング」が企業にもたらす“新たな事業機会”とは 5G・ローカル5Gの通信インフラを構築する 5G通信のためのインフラ整備に有効な方法の一つが、通信インフラを複数の通信事業者で共有する「インフラシェアリング」だ。インフラシェアリングは通信事業者以外の企業にとっても“無縁な話”ではない。それはなぜか。

世界で主流になる「インフラシェアリング」とは何か

 現在普及が始まっている5Gネットワークは、大容量のデータを低遅延で送受信可能な点や、多数のデバイスの同時接続ができる点が特徴だ。そのためこれまで以上にリッチなコンテンツの配信やリアルタイム性の高い情報提供が可能となり、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)技術、スマートシティー、ロボット、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)などの新しい技術やビジネスに役立つ可能性がある。日本政府が目指すべき未来社会として提唱する“Society 5.0”は、5Gネットワークを重要な基盤技術と位置付けている。

 とはいえ高度化した5Gネットワークでは、インフラ整備に巨額の投資が必要となるため、かつてのように通信事業者が各社で自前の設備を確保するのは難しくなりつつある。以前は通信インフラへの投資が競争優位につながったが、結果としてほぼ同一地点に各社の鉄塔が立ち並ぶといった無駄も生じている。

こうした状況が今後は変わる可能性がある。通信事業者がインフラシェアリングで投資効率を高めることで設備投資額を抑え、高付加価値な事業へ投資する流れが起きているのだ。NTTドコモは2022年3月に、基地局用鉄塔6000本をインフラシェアリング事業者のJTOWERに売却すると発表している。

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 インフラシェアリングは通信事業者以外の組織にも、新たなビジネスチャンスを生み出すことが期待できるという。日立国際電気の羽原沙耶氏(エンタープライズソリューション営業部)は、インフラシェアリングの現状を次のように説明する。「不動産開発会社や電力・鉄道などの事業者が、自社が持つ土地や建物に5Gの鉄塔やアンテナ、基地局などを代行して構築し、通信事業者からその設備利用料を受け取る“新しいビジネス”が生まれています」

 「グローバルに見ると、米国や中国などの各国ではインフラシェアリングを利用することは主流になりつつあります。一方で日本は、インフラシェアリングで他国より後れを取っている傾向にあります。言い換えれば、日本は今後の伸びしろが大きい市場ということです」。羽原氏はこう見解を述べる。

インフラシェアリングにメリットをもたらすDAS

 さまざまな通信設備がインフラシェアリングで利用可能だ。日立国際電気はDAS(Distributed Antenna System:アンテナ分散型システム)に注目しているという。DASは通信事業者の基地局光ファイバーでつなぎ、アンテナを分散させるためのシステムだ。屋内における設備の共用化に向いている。

 5Gネットワークでは高速大容量の通信を実施するため、従来の通信技術よりも高い周波数帯の電波を活用する。高い周波数帯の電波は直進性が高く、遮蔽(しゃへい)物があると減衰する。そのため建物外から建物内に電波が届きにくい傾向がある。このため屋内で5Gを活用するためには、建物内に多数の基地局を設置する必要が生じる。このときにDASを利用すると、一つの基地局から親機に接続させ光ファイバーでアンテナを分散させることが可能になる。通信エリアを拡大しつつ、基地局設備は必要最小限に抑えられる(図1)。

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 DASのメリットを拡大できるのがインフラシェアリングとの組み合わせだ。DASの5G親機に複数の通信事業者の基地局設備を接続することで、複数事業者が多数のアンテナ設備を共用できるようになる。羽原氏は次のように言う。「屋内でDASを使うメリットはきめ細かいエリア設計で電波が途切れない高信頼な通信エリアを構築できることです。通信エリア範囲外に電波が漏れづらくなるという効果もあります。DASは多重伝送が容易なことから、複数の通信事業者で共用するインフラとしても適しています。インフラの共用によって、設置や管理にかかるコストを削減することにつながります」

「現在さまざまな企業が、5Gを活用した『新しいビジネスの構築』や、5Gを利用したDX推進による『自社の企業価値向上』といった課題を抱えています。日立国際電気の事業者共用DASは、こうした課題を抱える企業がインフラシェアリング、ニュートラルホストといった新しいビジネスに参入する方法の一つになります」。同社の末岡崇明氏(エンタープライズソリューション営業部部長代理)はこう話す。

 インフラシェアリング事業に参入することで、不動産開発会社や電力系事業者、鉄道会社、製造業、ケーブルテレビ(CATV)などの通信事業者以外の企業も、自社が持つ土地や建物などのアセットを活用できる。「このビジネスのメリットは、設備利用料を受け取れることだけではありません。自社設備に5Gを導入することで、『自社アセットの価値の向上』や『デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進』の土台にもなります」(末岡氏)

日立国際電気のDASが持つ強みとは

 DASはインフラシェアリング以外にも、幅広い用途がある。日立国際電気は通信事業者の占有インフラとしてDASを導入した実績を持つ。導入先はホテルや工場、学校、スタジアム、空港などがある。DASは遮蔽物が多い建物で、多数のエンドユーザーがネットワークを必要とする状況に適していると言える。

 末岡氏は日立国際電気のDASの特徴を次のように話す。「当社はこうした導入実績から豊富な知見とノウハウを得ています。ユーザーからの声を製品開発に反映して、使い勝手の良さの向上にも取り組んでいます」。子機は天井裏に設置されることを想定して、ファンレス空冷で小型化しており、一般的な40~50センチ角の点検口から搬入できるサイズに抑える工夫をしている。

 

「製品は全て国内で設計、製造して保守を実施する“日本品質”です」と、日立国際電気の田積 研氏(エンタープライズソリューション営業部部長代理)は語る。「モバイルネットワークは、通信障害が発生した場合のインパクトの大きさから信頼性が重要になります。そのため日本品質のインフラを採用することの安心感は大きいのではないでしょうか」(田積氏)

 

 複数の通信事業者で共用するインフラには、幅広い周波数帯で利用可能であることが必須となる。日立国際電気は同社の「広帯域マルチバンドプラットフォーム」(図2)というシステムを利用し、さまざまな周波数でDASを利用可能にするオプションサービスを提供する計画を立てている。2022年10月時点では4Gと5Gのサービス提供に向けた開発に着手しており、通信インフラは監視サーバで一元管理が可能だ。

 

今後、日立国際電気は事業者共用DASの提供を進める一方、ローカル5Gの周波数でもDASを提供することも計画中だ。例えば製造業では、“Industry4.0”(工場のデータ化・自動化)の実現のために、ローカル5Gの採用が進んでいる。「5Gは、通信事業者が提供し、全ての契約者が利用できるパブリック5Gと、ユーザー企業が設置してその社内ユーザーのみが利用できるローカル5Gの両輪で普及することが望ましいと考えます。現在は5Gのユースケースの創出や、5Gを支える効率的なインフラ構築が課題となっています」。田積氏はこう語る。ローカル5Gの提供にはDASに加えて基地局設備も導入する必要がある。同社はパートナー企業のローカル5G基地局とDASを組み合わせて、ユーザー企業に提供できる体制の整備を進めている。

 5Gネットワークインフラの構築は巨額な投資を要することから、通信事業者は投資効率を高める必要がある。インフラシェアリングによる通信インフラの整備には、不動産などのアセットを所有する事業者が通信インフラ整備に積極的に参画することで、5Gネットワークの導入が加速することに加え、新規事業の創出も期待できる。インフラシェアリングは、5Gネットワーク構築に対して従来の通信事業者以外のさまざまな事業者が参画し、投資と収益を“シェアリング”するという、新たな事業の形を確立させている。新世代の通信インフラ構築という機会に、自分たちの企業がどのような形で参加できるか、考えてみてはいかがだろうか。

提供:株式会社日立国際電気
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